Social Good Blog
道徳ある経済ーソーシャルビジネスとは

利益最大化を目的とした従来の株式会社のような事業形態から、ビジネスを手段として社会課題を解決するソーシャルビジネスが世界中で注目を集めています。社会課題を解決するビジネスを営む起業家を「ソーシャルアントレプレナー」と呼び、そしてその事業を「ソーシャルビジネス」と呼びます。
今回は今注目が集まっているソーシャルビジネスに焦点を当て、実際の事例を交えながら解説します。またタイトルにある「道徳ある経済」の意味ですが、ソーシャルビジネスを考える上でよく取り上げられる言葉であり、日本人が昔から教わってきた教訓と繋がるところがあります。
経済なき道徳は戯事であり 道徳なき経済は犯罪である。
二宮 尊徳(金次郎)
ソーシャルビジネスとは
ムハマド・ユヌス氏
2006年ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が、近代のソーシャルビジネスを提唱しました。バングラデシュ出身の実業家であり、不可能であろうとされていた貧困層に向けての銀行「グラミン銀行」を創設し、持続可能なビジネスを多数排出してきました。
ソーシャルビジネスは事業(ビジネス)である以上、収益(Surplus)を得ることは追求するが、その収益は出資額以上は出資者には還元することはなく、あくまでも事業に再投資されることを前提とする。 ムハマド・ユヌス
ソーシャルビジネスとは、株式会社のように株主の利益最大化を会社の目的とせずに、貧困や教育といった「社会課題の問題解決をする」ことを、事業の目的とする組織を指します。
補足説明を付け加えると、
現地NGOと外資、特に外国籍企業との50%出資の合弁形態をベースに、社会的諸課題の解決をミッションとする事業(ビジネス)を、収益(Surplus)の確保を前提に行い、収益が得られた場合には、出資者には出資額を超えた額を配当形態で支払われることはなく、あくまでソーシャル・ビジネスに再投資されることとなる。
次文は彼の考える有名な言葉です。
現代資本主義では、ビジネスを営む人間は一次元的な存在として描かれており、利益を最大化することが唯一の目的だとされている。しかし、現実の人間は多元的な存在であり、必ずしも自己利益を追求するだけではない。すべてが他者の利益のために行われる。つまり人間の利他心に基づくビジネスこそ、私のいう「ソーシャル・ビジネス」である。「損失なし、配当なしの会社」である。
ユヌス氏によると、利益最大化を目的として事業を営む一般企業が行う事業活動と、ビジネスの手法を用いて社会課題の解決に取り組むソーシャルビジネスの大きな違いは事業活動の目的(ミッション)にあるようです。
日本におけるソーシャルビジネスの捉え方
経済産業省「ソーシャルビジネス研究会」では、ソーシャルビジネスを(1)社会性(2)事業性(3)革新性の指標を持って定義しています。
経済産業省「ソーシャルビジネス研究会」
(1)社会性
現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること(環境問題、貧困問題、少子高齢化、人口の都市への集中、高齢者・障害者の介護・福祉、子育て支援、青少年・生涯教育、まちづくり・地域おこし など(2)事業性
(1)のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。(3)革新性
新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組を開発すること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。
ソーシャルビジネス支援資金(企業活力強化貸付)
日本政策金融公庫では、NPO法人や、ビジネスを手段として社会課題を解決するソーシャルビジネスを営む企業へ向けて「ソーシャルビジネス支援資金(企業活力強化貸付)」融資を実施しています。借入の際の担保・保証人ついて、一定の条件を満たせば代表者保証が不要になるケースもあります。
ソーシャルビジネスマーク
企業、NPO、住民、行政、公的機関など、さまざまな主体が手を取り合って、地域社会が抱える課題の解決に取り組む様子を、ソーシャルビジネス(Social Business)の「S」を用いて表現しています。
廃棄されたフィッシュネットから誕生したスケートボード
BUREO(ブレオ)は、廃棄された漁網をリサイクル製品に転換させクールなスケートボード開発し、ソーシャルビジネスを展開する南米チリ発の新興スタートアップ企業です。
カリフォルニア州初のBコーポレーション(ベネフィット・コーポレーション)となったパタゴニアは、持株会社「パタゴニアワークス」を設立し、環境に肯定的な利益をもたらす責任ある新興企業を援助する内部基金「TIN SHED VENTURES」を設立しました。
Bureo(ブレオ)はTIN SHED VENTURESから出資を受けています。
*2016年「$20 Million & Change」から「TIN SHED VENTURES」へ改名
ビジネスモデルはスケートボードとサングラスを廃漁網から製造&販売から収益を得ることに加え、必要な原材料を提供してくれる漁業コミュニティに恩恵をお返しするようようにデザインされています。
またブレオの使命と調和するリサイクル、環境教育、コミュニティの力づけの3つを支援する草の根非営利団体〈ファンダシオン・エル・アーボル〉と協働しながら、持続的なビジネス、コミュニティ作り「ネット・ポジティバ」を作っています。地域の課題解決(雇用)と環境問題を同時に解決し、持続可能なビジネスを展開するお手本となるスタートアップです。
Photo: Bureo
ブレオの創業者、ベンは次のように話します。
漁師が釣った魚をある値段で売るのと同じように、これらのチームはネット・ポジティバを通じて漁網を収集し、ブレオに売るのを彼ら自身のビジネスにすることができる。漁網を回収することで収入を補足できるんだ。最終的には、すべてを彼らに手渡したい。いま僕がここにいるのは彼らを指導するためだけだ。
ボランティア、CSR、NPOの大きな違い
ボランティア活動や企業のCSR、また非営利団体(NPO)等の活動それ自体は、社会の課題を解決することに向けて活動していることには間違いありません。ではソーシャルビジネスとそれら取り組みは、一体何が異なるのでしょうか。
大きくその仕組みと目的です。
コトバンクによると無償で自発的に社会活動に参加したり、技術や知識を提供したりする人、またはその活動のことを指します。ボランティアの理念として、自分から行動すること、ともに支え合い協力し合うこと、見返りを求めないこと、よりよい社会の実現を目指すこと、と定義されています。また活動資金は、寄付や行政からの助成金が主な財源となっています。
キッズレディースブランドninoを展開するスリーアローズ株式会社(大阪市・中央区)は、子供達の新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、手作りマスクボランティア裁断を地域コミュニティと協働して行いました。
大阪福島区内18園の保育園・幼稚園の子どもたち・保育士さん達に1,901枚、その他2,000枚近くを超えるマスクをお届けすることができ、喜びの声が多数寄せられたそうです。基本的にボランティア活動とは、自分でできることを自分の意志で周囲と協力しながら無償で行う活動のため、金銭のやり取りは発生しません。
CSR(Corporate Social Responsibility)
大企業が取り組んでいる事例が多く、本業である事業とは別に社会的責任を果たすために行われることであり、必ずしもCSRを目的に企業活動を行っている訳ではありません。CSRでは余剰利益を使って活動するケースが多く、活動自体から単体利益をを得るのではなく、CSR活動を通して企業のイメージアップ、ブランディング向上に繋げることで一般投資家や消費者に高感度を持ってもらうために行われています。
欧州ではアジア諸国と比較すると、SDGsやソーシャルビジネスに対して市民や民間企業が盛んに取り組んでいます。ドイツの庶民派スーパーマーケットPENNYは、エコバッグ使用で環境保全を消費者へ促すと同時に、スーパーの売上を上げる仕組みを考え出しました。
THE PENNY GIVE BAG
仕組みはと言うと、消費者はPENNYでお買い物をすると10セントが都度キャッシュバックされます。そしてスーパー側は地域の社会福祉組織に10セントを寄付します。
PENNYはエコバックキャッシュバッグ単体だけだと事業収益は得られませんが、モノを直接販売して売上を上げるのではなく、環境に配慮した企業ブランドをCSRで打ち出すことで、消費者の心を掴みリピーターを増やしています。エコバッグを使うことで寄付が行われ、消費者にとっては自分は地域活動に貢献しているといった”心理的な充足を満たす”ことも大きなメリットとなっているそうです。
見た目もデザイン性に富んでおり、ファッションとしても人気がある
NPO(Non Profit Organization)
特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、 ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進することを目的として、平成10年12月に施行されました。
法人格を持つことによって、法人の名の下に取引等を行うことができるようになり、団体に対する信頼性が高まるというメリットが生じます。
アメリカ「ジョンズ・ホプキンス大学非営利セクター国際比較プロジェクト」がNPOを定義し、現在はそれが国際基準となって考えられています。
① 非営利(non-profit)
利潤を分配しないこと。ただし、活動の結果として利潤が発生しても、組織本来のミッション(慈善的目的)のために再投資すればよい。
② 非政府(non-governmental, private)
民間の組織であり、政府から独立していること。ただし、政府からの資金援助を排除しない。
③ フォーマル(formal)
組織としての体裁を備えていること。
④ 自立性(self-governing)
他組織に支配されず、独立して組織を運営していること。
⑤ 自発性(voluntary)
自発的に組織され、寄付やボランティア労働力に部分的にせよ依存していること。
⑥非宗教性
宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することが主たる目的とするものでないこと。
⑦非政治性
政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと。
英語文献はこちら。
特定非営利活動とは
特定非営利活動(NPO)とは、以下20種類の分野に該当する活動を指し、不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とするものです。
一 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
二 社会教育の推進を図る活動
三 まちづくりの推進を図る活動
四 文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
五 環境の保全を図る活動
六 災害救援活動
七 地域安全活動
八 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
九 国際協力の活動
十 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
十一 子どもの健全育成を図る活動
十二 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
NPOの事例_ホームレスを生み出さない日本に
「ホームレス状態を生み出さないニホンに」をビジョンに事業を展開するのは、大阪市北区に本社を構える認定NPO法人Homedoorです。
NPO法人の特徴は「寄付制度」です。NPO法人の財源には会費、寄附金、補助金・助成金、事業収入があり、事業に関する収益の財源別構造収益の内訳をみると、認定・特例認定法人では「寄附金」(15.9%)が「事業収益」(67.9%)と、組織を運営していく上では貴重な財源となっています。
NPO法人Homedoorでは、事業にかかる経費を「寄付」「個人サポーター」「法人サポーター」から賄い、事業を運営しています。事業で得た収益は出資者に分配するのではなく、事業に再投資されるのが特徴です。
一般企業が行う事業活動とソーシャルビジネスの違いそれは「目的」です。利益を最大の目的とするのか、それともビジネスを手段として社会課題を解決するのを目的にするのか。はじめに取る選択肢で、使える制度なども大きく違ってきます。
廃漁網から作るスケートボード「Bureo」
NPOとソーシャルビジネスの大きな違いそれは「外部資金に頼らない事業形態をデザインできているか」です。イコール持続可能なビジネスモデルができているかが見極めのポイントになります。